シンプルであること

ひと頃、「断捨離」が流行った。モノに囲まれ、長じてモノに支配される生活へ のアンチテーゼとして「断捨離」は、その印象的なネーミングと相まって世に浸透し、多くの支持を得たのだと思う。人はモノへの希求に突き動かされながらも、結局はシンプルな暮らしを求める。必要なモノは身近にあるべきだが、必要だと思っていて案外そうでないモノが身辺に溢れる生活というのは考えてみると確かに煩わしい。

大量生産・大量消費社会、モノの「ファスト」化などのトレンドを経て、時代は ゆっくりだが確実にそこから離れようとしているのではないだろうか。なかんずく 家の設計においてはそんなことを感じる。実際、家づくりは人生の節目ともいうべき一大イベントで、それを機にシンプルで快適なライフスタイルへスイッチしたいという願いを持つ施主は多い。そうした要望を聞き、設計者としてはまず「持っているものリスト」を出してもらうことがある。持っているモノが多ければ多いほど、新しい家にそれを納める際、どの程度の収納が必要なのかを測る目安になる。と同時に、その人と家族が新居でどんなセンスやスタイルで過ごしたいのかを理解する手がかりにもなるからだ。そしてそれを把握した上で、その人らしく過不足のない、かつ上質な生活を送ることができるようにという想いを込めて設計にとりかかるのだ。 私自身いろいろなモノを手にしてきたが、その経験を経て今思うのは「所有するだけの満足」は、もういらないということだ。つまり、どんなモノでも使わなければ意味がないのである。逆に言えば、積極的に使ってこそモノはモノとしての役割を果たし、日々を彩る存在になり得るのだし、愛着もわいてそれ自体を大切にするだろう。そして大切なモノに囲まれる暮らしは、たとえモノの数は少なくとも豊かであり、幸福だ。

そんなわけで、これから家づくりを考える人に伝えたいのは「Simple is much better(シンプルこそすごくいい)」。ついでに建築家目線で言えば、シンプルな 生活は、住空間の質を上げてくれるものでもあるのだ。