書斎について

男性の間で書斎への憧れがひろがりつつあると新聞の記事を目にした。けっして新しい話ではないが、私も同じことを感じていた。男性専門の雑誌や住宅雑誌でも時々、特集が組まれているようだ。一昔前は男性は外で仕事をして家には寝に帰るようなことが当たり前だと思われたが、今は低成長時代で、休日を増やし残業をできるだけしない。家庭や家族との時間を大切にしたいという思いから、男性の家への回帰が本格的に始まったのだろう。

以前は設計者との打ち合わせは奥さんにまかせて、旦那さんは資金面と大枠の確認だけの方が多かったが、今は夫婦揃って打ち合わせに参加するケースが増えてきた。
男性の書斎志向は、これまで住まいの中に男性(主人)の居場所がなかったことと時間に余裕が出てきたこと、仕事一辺倒からの脱却などが理由にあげられそうだ。

書斎といっても、文筆業や学者の方のいわゆる「書斎」ではなく、「男の部屋」、「趣味の部屋」、「ひとりになれる部屋」といったところではないか。家父長制家族の下でも、一家の主としての男は、家全体が自分の部屋みたいなもので、永い間日本では特に主人の部屋は必要なかったのかもしれない。キッチンや水廻り、子供には個室を与えるようになるなど、以前に比べ相対的に男(主人)の居場所は見えにくくなっている。このような環境の変化の中で、これまでの家では所在ないのではなかろうか。

男の部屋が決して逃避のための場所ではなく、個人的に趣味を楽しむための部屋であったり、ひとりで様々な考えを巡らす場所であるとするならば、やはりあったほうがよいと思う。男の部屋は決して聖域である必要はなく、時には妻や子供が訪れ、普段できない話をしたり、友人との交流の場であったり、何かと有意義に使えるのではないだろうか。次に、広さであるが、狭くてよいのではないかと思っている。人間は心が内に向かっている時はかえって、広い空間よりも狭い空間の方が落ち着くものだ。

男の書斎は、個室とは限らない。書斎コーナーでよいのである。「緩やかな空間のくぎり」から家族との距離を計ることも今の時代の新しい家族の有り様からすると、理にかなった考えかもしれない。