2階リビングへの思い

20代半ばのまだ何もわからない頃、知り合いの家を設計することになった。
そこは周りを住宅に囲まれた小さな敷地で、南には大きな2階建ての家が建っていた。施主は当時30代の夫婦で、「建築の勉強になれば、、、」と善意の心に満ちた、おおらかな時代の話である。4人家族と車2台分のスペースを考えると家は2階建てになる。
暖かな居心地のよい家にしたいと思っていた私は、家族の集まるリビングを日当たりのよい2階にし、寝室や子供部屋を1階にしたプランを提案した。その当時、周りの人たちから随分反対されたが、反対を押し切るエネルギーと2階リビングにしたいという強い気持ちで何とか施主を説得し、はじめて設計した家を2階リビングにすることができた。

以来、十数件で2階リビングの家を設計する機会に恵まれ、自邸も訳あって2階リビングである。当時を振り返ると、私の設計の考え方は与条件の中で長所を最大限に形にしてゆく作業だった。現在、同じ2階リビングの家を設計するとき、2階リビングのリスクをまず施主に説明し理解してもらうようにしている。また、老後の対策として、ホームエレベーターを設置できるスペースを設計時に計画し、容易にリフォームできるような工夫をしている。それでも最終的に迷いがあれば、立ち止まり、もう一度施主とともに考えるようにしている。設計することは決断の連続であり、長所と短所は背中合わせである。「こんな家にしたい、、」という強い気持ちがなければならない。完成後、誰かに「どうしてリビングを2階にしたの?」と問われたとき、施主自らが自信をもって説明できることが大切であると考えている。

2階リビングの魅力は生活の中心になるリビングが、空に近く、明るいこと、空間の自由度(屋根の形状による天井の高さ)などもあるが、本当の魅力は、道路から玄関、それから2階に至るまでの距離感であり、住み手や来客にとって「奥性」を感じさせる仕掛けにあるのではないかと考える。家に誰かが来たとき、玄関で済ませるか、玄関の横にある応接間に通すか、親しい人であれば1階のリビングに通すことになる。2階リビングの家は親しい人をもてなすときに2階まで上がってもらうことになるので、家の奥まで通してもらうことへのもてなしを感じ取ることが多いようだ。
「住まいにおける居心地のよさ」とは、くつろぎ場であるリビングを距離感や空間の重層によってできるだけ静かな場所として提供することかもしれないな、、と思っている。