中庭のあるコートハウス
「明るく広々とした住宅を」という希望に対して、中庭を介して家族の気配を感じ合えるような一体感のある家を提案することが多い。庭には緑を配し、アプローチを通して中庭への視線を確保する。本来、家庭という言葉が中庭に根ざした生活に由来しているといわれるように、都市の住宅では中庭が家の中心であり、光や風や緑を取り入れるための半屋外空間の場として形成されていた。
「中庭」とは「屋根のない部屋」と考えてみたらどうか。その中庭での日常のシーンをイメージする。例えば、裸でビールが飲め、夕暮れ時からのバーベキューを楽しみ、窓にはカーテンもブラインドも下げる必要もなく、外からのプライバシーを守ってくれる。子供達はテラスで遊び、母親は室内で家事をしながら、その姿を見守る。
但し、中庭は雨の日は役に立たない。夏は暑いし、冬は寒い。逆説的に言えば、だからこそ、中庭は意味がある。中庭は私たちに季節を教えてくれ、外で過ごす喜びや移り変わる日差しや通り抜ける風を教えてくれる。
「コートハウス」や「中庭」の最大の魅力は内外空間を一体のものとし、建築空間化することで敷地を最大限、有効利用できることだ。床面積に入らない部分を一生懸命につくるということは坪単価では表せない費用はかかるが、建物本体の坪単価に比べれば、対費用効果としては安いのかもしれない。
坪庭、路地庭、通り庭(土間)などの「庭」は、プライバシーを確保しながら自然を呼び込み、室内と戸外とが一体となった豊かな住空間を得るための工夫の中で生まれた。庭と室内との連続性を高めるためには、仕切りのひとつである建具のディテールの工夫や床の段差の処理などに気を配り、機能性だけでなく視覚的にも連続性を損なわないようにすることも外部との繋がりをつくる上で大切である。中庭を介して見え隠れする家族の姿や、季節感、時間の移ろいは、ともすれば現代社会で忘れがちな「やすらぎ」を私達に与えてくれる。